「
こちら」でmayさんからコメントをもらいましたが、また安井氏の間違いを指摘することになったのでエントリーにします。
安井至氏がIPCCの一次情報を吟味していることは分かりました(
第4次IPCCレポート 02.04.2007)。ただ間違いやかなり憶測に基づく発言も散見されました。すこしだけ指摘しておきます。まずは海面上昇速度を引用した表です。
海面上昇速度への要素別影響 mm/年
1961-2003 1993-2003
熱膨張 0.042* 0.16*
山岳氷河雪冠 0.050* 0.077*
グリーンランド 0.050 0.21
南極 0.14 0.21
以上の総合 0.11* 0.28*
観測値 0.18* 0.31*
*印をつけた部分は全て実際の値よりも一桁小さくなっています。実際の表の値を以下に示します(
IPCC 第4次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約)。
(表の注釈:1993年以前のデータは潮位計、1993年以降は衛星高度計の観測による)
海面上昇速度への要素別影響 mm/年
1961-2003 1993-2003
熱膨張 0.42 1.6
山岳氷河雪冠 0.50 0.77
グリーンランド 0.05 0.21
南極 0.14 0.21
以上の総合 1.1 2.8
観測値 1.8 3.1
安井氏は海面上昇の主要因である「
熱膨張」による寄与をまったく無視しています。この表のもっとも言いたいことは、熱膨張による寄与が大きいということと、1993-2003年の変化が1961-2003年に比べて著しい上昇率を示しているということです。一次情報に触れても正しく読解しなければ、まったく誤ったメッセージを発信することになると思います。残りは、おそらく安井氏が憶測を行ったためにミスリードした部分と思われる部分を指摘しておきます。
B君:毎度言うように、1800年ごろから、地球の温度は上昇し続けている。もっとも、IPCCが使っている地球温度の変化(Mannによるもの)だと、1850年からしかデータが無いので、余り明確ではないのだが。しかし、気温の上昇に遅れておきる海面上昇のデータを見ても、そんな状況だと思われる。
IPCCの第四次報告書のSPMには、Mannによる所謂ホッケースティックの図は用いられていません。SPMで用いられている図は氷床コアから見積もった二酸化炭素濃度の一万年単位の長期間変化です。
Mannによるホッケースティックの図を持ち出して議論することはできません。ホッケースティック論争の結果、マンによる図は事実上棄却されています。Mannによるデータは1850年からというものではなく、過去1000年にわたる気温変化を示した図です。しかも、それはマッキンタイアのデータを無断盗用し改竄されたものです。
A君:その図が、報告書中のfigure SPM-4なのですが、よくよく見ると、結構怖いことが分かるのです。もしも、人為的な影響を含めない自然起源の温度変化だけを算出してみると、1950年ごろから、地球の温度は下がりつつある。すなわち、多分、太陽活動は落ちつつある。しかし、現実には、人為的な影響が非常に大きいもので、気温が上昇している。
太陽活動が落ちつつあるという発言は事実に反しています。私もモデルの詳しい事情は知りませんが、太陽放射の値が前回よりも小さい値が採用されたことは事実です。これは太陽の活動の変化ではなく、IPCCが採用した値が変化したということです。
C先生:1800年以前の温度となると、世界中に温度計が有ったわけでもないので、様々な花粉の化石などの解析によるもの。不確実性が高いとことで、IPCCは使わないのだろう。しかし、歴史的記述によっても、1600年頃も低温期で、1800年頃も低温期だったようだ。
A君:要するに、このところの温度上昇は、もしも地球が温度上昇側に振れたとたんに、もっとすごい上昇速度になるということを意味する。
現在がマウンダー極小期と同じように太陽活動の極小期という観測事実はないと思います。むしろいくつかの観測によると太陽が活発化しているとさえ言われています。
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2006年3月7日(読売新聞):2007年後半から08年初めに活発化と予測・
2006年12月13日: 巨大フレア発生・
現在の太陽の磁場は100年前の約2倍以上