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断熱モデルによる気候感度

気温に与えるCO2の影響を評価するための指標の一つに気候感度があります。気候感度とは、一般に、CO2が二倍に増加したときの気温変化のことです。私がこれまでに紹介した気候感度の値としては、実測値に基づくもので、0.4℃程度となっています(水蒸気フィードバックと気候感度の妥当性)。「アイリス仮説」など雲の研究で著名なリンゼン氏も気候感度の値に対して近い見解を示しています。

Richard S. Lindzen, An Exchange on Climate Science and Alarm, in Global Warming: Looking Beyond Kyoto, 2008

さらに、今年になり、地球温暖化に対する総説論文がイギリスの科学雑誌に掲載されました。

Global warming and carbon dioxide through sciences :
G. A. Florides and P. Christodoulides, Environment International, 35, 390 (2009).

JSTによる抄録の邦訳: 科学を介した地球温暖化および二酸化炭素

この総説論文に紹介されている気候感度の値は、0.01℃~0.03℃となっています。この気候感度の値は、断熱モデルにより見積もられたものです。つまり、この気候感度の値は、温室効果や潜熱輸送だけではなく、圧力による断熱圧縮による昇温効果を考慮したものとなっています。総説に紹介されている断熱モデルの論文の式を見ると、温室効果をそのまま比熱の補正項として表現されているのが分かります(論文のPDFが必要な方はメール等にて要請してもらえれば用意します)。

O. G. Sorokhtin et al., Energy Sources, Part A, 29, 1 (2007)

ところで、私は前回のエントリーで温室効果を比熱のアナロジーとしてイメージしたことを伝えましたが、断熱モデルのように実際に式に導入するまでには至りませんでした。下記に前回のエントリーの一部を引用します。

私が温室効果に対してもった初期のイメージとしては、比熱が生じるメカニズムをミクロな視点で考えることで、そのアナロジーとして地表と大気の間で付加的な保温効果が生じるのだろう、といったことを考えました。比熱は物質の持つエネルギー準位によって規定されます。しかし、あまりにも高いエネルギー準位は比熱に寄与しません。水蒸気や二酸化炭素は、調度、赤外領域にエネルギー準位を持っており、その放射によるやり取りに注目したものが温室効果ではないかと考えました。

温室効果の理解と宇宙気候学の進展

気候感度は気候モデルによる計算によっても見積もられており、低感度と高感度の二種類が用意され、それぞれのパラメータには異なる任意の値が用いられているようです。しかしながら、気候モデルも断熱モデルも所詮は机上の空論です。実測値には敵いません。私としては、Idsoらにより見積もられた実測に基づく気候感度の値の信頼性がもっとも高いと感じています。

TARでは、UKMOモデルによる20世紀気候シミュレーションで、自然起源と人為起源双方の強制力を与えることで全球平均地上気温のトレンド・長期変化を定量的にも再現できることを示していた。その後、いくつかの気候モデルでも同様の結果が出ているが、それらで用いられている強制力は同じではない。異なる大きさの強制力を用いていながら、なぜどのモデルでも20世紀気候再現に成功するのか?どうやら気候感度の低い(高い)モデルでは大きい(小さい)強制力を使った実験を行っているためらしい。

気候感度に関するIPCCワークショップについて(リンク切れのため、キャッシュより引用)

それにしても、気候モデルを用いた研究者同士でも、お互いに用いているパラメータや計算条件すらも分からないとは、計算の扱いに関して余りにも閉鎖的に過ぎるようにも感じます。これでは計算の再現性や検証さえできませんから、反証可能性といった科学としての最低限度の条件を満たすことすら難しいのではないかと思います。

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温室効果の理解と宇宙気候学の進展

大気中の赤外活性分子による「温室効果」を理解したいと思っている人は少なくないと思う。しかし、世間一般に流布されている温室効果の説明に満足できるものはほとんどないといっていいだろう。なぜなら、物理学の基礎である熱力学の第二法則を無視した説明が平然とまかり通っているのが現状である。そこで、私はこれまでに「Gerhard Gerlich et al. (2007)」のレポートを二回にわたって紹介した。


解き放たれたアレニウスの呪縛
理論物理学による温室効果に対する反証


Gerlichらのレポートは最近になって総説(Review Paper)として物理学雑誌に受理されている。


"Falsification Of The Atmospheric CO2 Greenhouse Effects Within The Frame Of Physics"
G. Gerlich and R. D. Tscheuschner, Int. J. Mod. Phys. B, 23, 275-364 (2009)


論文の内容についてはプレプリントではあるが、次のサイトにpdfとして配布されている。


http://arxiv.org/abs/0707.1161


総説を読みこなすのは大変なことだが、時間のある人は一読してみるといいかもしれない(たとえば、気候モデルでは大気の熱伝導率をゼロとおくことが慣習となっていることなど、ほとんどの人は知らなかったのではないかと思う。)。温室効果の理解の助けになる日本語のサイトとしては、近藤邦明氏の「総括 気温変動と大気中CO2の関係」、「『温室効果・再放射』再考」などがある。私は大気からの「再放射」という言葉によって、温室効果の理解を間違えたことがあります。言葉の不十分な定義は無用な混乱を生じさせます。


私が温室効果に対してもった初期のイメージとしては、比熱が生じるメカニズムをミクロな視点で考えることで、そのアナロジーとして地表と大気の間で付加的な保温効果が生じるのだろう、といったことを考えました。比熱は物質の持つエネルギー準位によって規定されます。しかし、あまりにも高いエネルギー準位は比熱に寄与しません。水蒸気や二酸化炭素は、調度、赤外領域にエネルギー準位を持っており、その放射によるやり取りに注目したものが温室効果ではないかと考えました。


結局のところ、地表から大気(あるいは宇宙)への放射の条件と、上層大気から宇宙への放射の条件のみに注目すれば、後のエネルギーのやり取りは余り考慮する必要性を感じませんでした。つまり、地表放射に対しては、大気の窓を閉める余地があとどれくらい残されているのだろうか。大気上層に関しては、局所熱力学平衡にある大気高度と、非局所熱力学平衡にある大気高度で、光学的厚さの増加に対する放射の振る舞いに違いがあるのではないだろうか、といったことです。


大気の窓は雲によって開閉されます。「アイリス仮説」によれば、熱帯の気温が一定に保たれている原因として、雲がアイリスの「絞り」のように開閉し、放出するエネルギーを調整しているのではないかと考えられています。この効果は放射平衡温度の見積もりにどのように寄与するでしょうか。また、海洋や対流の重要性も忘れてはなりません。さらには、霧箱の原理を地球大気に当てはめたスベンスマルク効果があります。宇宙線や太陽活動を含めた研究は、「宇宙気候学」といった分野で行われています。


宇宙線はオゾンホールとの相関も指摘されています。さらには宇宙線が生命進化などにも影響を及ぼしてきたのではないかとの説もあります。点と点を結ぶことで、おぼろげながら見えてきたことがあります。私達は来たるべきパラダイムシフトの瞬間に立ち会っているのかもしれません。


"Correlation between Cosmic Rays and Ozone Depletion"
Q.-B. Lu, Phys. Rev. Lett., 102, 118501(2009)


" From galaxy to genome: A perspective on snowball Earth and Cambrian explosion"
Shigenori Maruyamama


"Models on Snowball Earth and Cambrian explosion: A synopsis"
S. Maruyama and M. Santosh, Gondwana Research, 14, 22-32 (2008)

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月の摂動

太陽の光が地球に到達するには、およそ8分程度かかる。このことから、天文学的スケールでは、地球と太陽の距離は非常に近いともいえる。この地球と太陽間の距離を1天文単位(AU=アストロノミカル・ユニット)と言い、これを光年に直すと約0.000016光年となる。


では、プロトンや電子などの荷電粒子からなる太陽風は、どのくらいの時間をかけて地球に降り注いでいるのだろうか。Wikipediaによると、地球の公転軌道に達するときの太陽風の速さは約300~900km/sとある(太陽風 - Wikipedia)。つまり、太陽風が地球に到達するまで約2~4日程度かかる計算になる。


それでは、月の摂動が地球に及ぼす時間レンジはどのくらいのスケールで起こるのだろうか。比較的長いものでは、月の「章動」運動による18.6年周期の変動が知られている。
千島・アリューシャン列島海峡付近における海面水温の長期変動(中央水産研究所)


より短期的な月の摂動の例としては、月の満ち欠けと降雨の関係を挙げることができる。根本順吉氏の「月からのシグナル」には、新月および満月の三から四日後にかけて雨が降りやすい傾向にあることを見出したブラッドリーらによる論文が紹介されている。


moon-rain
アメリカにおける月齢と降雨量の関係
The Lunar Synodical Period and Precipitation in the United States:
G. W. Brier and D. A. Bradley, Journal of the Atmospheric Sciences, 21, 386 (1964)


南半球における降雨氷晶核濃度と月齢の関係
The Results of Large–Scale Measurements of Natural Ice Nuclei:
E.K. Bigg and G.T. Miles, Journal of the Atmospheric Sciences, 21, 396 (1964)


月は、はじめ地球に入射している流星塵に影響し、次にこれが流星塵を一部としてふくむ下層大気の氷晶核に結果としてあらわれる。そして、最後に、氷晶核の数に関連したグローバルな降水と月齢の関係としてあらわれてくる仕組みが考えられることになるのである。

p115、根本順吉、「月からのシグナル」、筑摩書房、1995


ビッグは、氷晶核の起源を、散在流星として直接地球に入射してくるものを考えたのであるが、ヴァンドは次のように考えた。木星族の流星群が、太陽にちかづいたり遠ざかったりする時に、地球の公転軌道を横切り、その時、地球をまわる月の表面に落下、これが毎秒一〇キロくらいの速さで月から脱出してくる。これがテクタイトに似た粒子のせまい流れとなって地球まではね返ってくる。

p117、根本順吉、「月からのシグナル」、筑摩書房、1995


なぜ、月齢と降雨に関係があるのだろうか。月は宇宙塵を攪拌しながら公転をしており、その攪拌された宇宙塵が地球にも降り注ぎ影響を与えているのではないかとの説がある。1994年には、デルモットらにより「太陽系内の小惑星塵が、地球の公転軌道に沿って閉じ込められており、地球はこの塵を絶えず引きずりながら公転しているらしい」ことが発見されている。
A circumsolar ring of asteroidal dust in resonant lock with the Earth:
Stanley F. Dermott et al, Nature, 369, 719 (1994)


dust-cloud
Marc Kuchner et al., Dynamics of Exozodiacal Clouds


北京オリンピックでも話題になったが、人工降雨の実験では大気中に微小粒子をばらまいたりもする。いわゆる種結晶となるものがあれば、結晶成長を著しく促すことができるようになる。スベンスマルクらは、雲の形成過程に高エネルギー宇宙線からの二次粒子がトリガーとなっているとの説を唱えている。どうやら、雲の形成については、宇宙塵や宇宙線など宇宙物理学的な摂動が無視できない働きを担っている可能性があるようだ。


太陽の11年周期と月の18.6年周期

太陽活動の11年周期の変動と気温の関係は、長期記録された気温変化をフーリエ変換スペクトルにすることで見出すことができる。下記に紹介する図を見ると、11年周期の気温変動の他に、さらに18.6年周期の気温変動を見出すことができる。これは月の「章動」運動によるものと考えられる。

sun-moon-cycle

Solar Cycle Signal in Air Temperature in North America: Amplitude, Gradient, Phase and Distribution:
Robert G. Currie, Journal of the Atmospheric Sciences, 38, 808 (1981)


北極振動(Arctic oscillation )や北大西洋振動(NAO)に対する月の摂動の影響を指摘する論文もある。

The high signal-to-noise ratio shows that the lunar nodal spectrum can have a major influence on the Arctic oscillation system, which influences long-term fluctuations in the extent of Arctic ice. The lunar nodal spectrum in the coverage of Arctic ice is a potential influence on the NAO winter index, weather, and climate.


6-18-74
The influence of the lunar nodal cycle on Arctic climate:
Harald Yndestad, Journal of Marine Science, 63, 401 (2006)


一方、太陽活動と銀河宇宙線によってもたらされる摂動は海洋の運動を通じ、中長期にわたって地球を駆け巡り、地球の各地域の気候に影響を与えているようだ。


time-lag
Evidence for a physical linkage between galactic cosmic rays and regional climate time series
Charles A. Perry, Advances in Space Research, 40, 353 (2007)

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お詫びと訂正:大気からの再放射の解釈について

合成の誤謬
私はここで皆さんにお詫びしたいと思います。これまで私はJack Barrettの論考などをもとにして、分子論的な視点から大気からの再放射は微弱ではないかとの考察を行ってきました(CO2による「再放射」の量子収率)。


これは(単発の事象として)ミクロな視点で見れば正しいのですが、(定常的な現象として)マクロな視点から見ると正しくありません。たとえば、下記のサイトの24~27ページを参照すると、比較的分かりやすいと思います。
基礎物理セミナー レジュメ集 (第 5 章本文)


24ページには、局所熱力学平衡が成り立つ条件として、『衝突による励起/脱励起速度は十分速く, 放射過程よりも衝突過程が支配的である状況』とされ、26ページには、『ただしΦ= a21/A21 である.局所熱力学平衡状態では衝突による励起/脱励起作用が支配的であるので, Φ→ ∞となり, J → B すなわち放射源関数はプランク関数となる』

『Φは, 衝突過程, 放射過程におけるそれぞれの励起状態から緩和する確率a21, A21の比である. この節の最初の議論から期待していたように, Jº ⋍ Bº, すなわち局所熱力学平衡は加熱率が小さいか, 衝突過程が支配的である, すなわちΦが大きい場合に成立する』とあります。


これをまとめますと、「局所熱力学平衡では、分子衝突による励起・脱励起過程が支配的になるために放射源関数がプランク関数で近似することができる」ようになり、その結果、赤外活性分子による大気放射が近似的に黒体放射スペクトルを描くことができるようになるのではないかと考えられます。つまり、無放射緩和過程が支配的であるからこそ、局所熱力学平衡が成り立っており、もし、放射による緩和過程が支配的ならば、局所熱力学平衡は成り立たない、と言い換えることができると思います。


私の視点で欠けていたものは『励起源』としての衝突過程です。つまり、励起状態からの緩和過程のみに注目し過ぎたということです。衝突励起の速度が大きければ、単位時間当たりの励起回数は非常に大きなものとなります。一方、衝突励起、あるいは衝突による脱励起の速度が非常に遅ければ、単位時間当たりの励起回数は非常に少なくなるものと考えられます。


私はボルツマン分布による励起濃度の推定は行いましたが、それ以上の踏み込んだ考察に欠けたため、今回のようにミクロからマクロを結ぶ過程で過ちが生じたのだろうと思います。太陽のような高温な物体が黒体放射を描くのも、衝突による励起・脱励起のサイクルが非常に速いため、定常的な発光強度としてはプランク関数を描くことができるのではないかと考えられます。

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無放射的なエネルギーの散逸過程の寄与の定式化

無放射的なエネルギーの散逸過程による放射伝達の破綻

一般に、ある温度をもつ物体はシュテファン・ボルツマン則であらわされるような放射を行っていると考えられている。しかし、シュテファン・ボルツマン則やプランク放射は黒体を想定しているために、実際の分子などにそのまま当てはめることはできない。その理由の一つは、「分子の持つスペクトルが連続スペクトルを有していない」ということがあげられる。もう一つ重要な点は、分子衝突などに誘起された「無放射的なエネルギーの散逸過程」による影響が考えられる。



分子衝突は、しばし励起分子から他の基底分子への無放射的なエネルギー移動を誘起し、正味の放射強度を減少させる。特に、この無放射緩和過程があるために、大気を光学的厚さだけの関数としてあらわすことができなくなり、対流圏大気において放射平衡モデルが破綻する原因の一つともなっている。対流圏とも言うように、下層大気では、放射よりも伝導や対流などの「無放射的な伝熱過程によるダイナミクス」がより重要な役割を担っているものと考えられる。

 

プランクの放射式における無放射緩和過程の導入

そこで、実際の気体分子と黒体における放射の違いについて、より明確にするための定式化を行ってみた。方法としては速度論的アプローチを用いて、黒体放射におけるプランクの式に無放射緩和過程の寄与の導入を試みたまず、励起量子準位(N2)から基底量子準位(N1)への放射遷移の速度式は、誘導吸収、自然放射、誘導放出を用いて表すことができる。



dN2 / dt = - ( A + B・I  ) N2 +  B・I・N1

 

ここで、AはアインシュタインのA係数、BはアインシュタインのB係数、Iは場に入射される放射強度である。これを解くと、

 

I(ν,T) = 8hν3 / {c3 [ exp(hν/ kBT) - 1 ] }

 

となる。ここで、hはプランク定数、cは光速、kBはボルツマン定数、Tは温度、νは振動数である。また、このときの放射強度I(ν,T)をE(ν,T) と定義する。

 

E(ν,T) = 8πhν3 / {c3 [ exp(hν/ kBT) - 1 ] }

 

これはプランクの式(プランク分布)とも呼ばれ、ある振動数のスペクトル成分における黒体放射の強度(空洞放射強度)を示している。つまり、黒体放射におけるスペクトル分布はプランクの式によってあらわすことができる。

実際の気体分子は、さらに、分子衝突による無放射緩和過程を考慮する必要があるので、



dN2/ dt = - ( A + B・I + knr ) N2 + ( B・I + kZ ) N1

 

となる。ここで、kZ 、knr は、それぞれ衝突による励起速度および脱励起速度である。



定常状態が近似できる場合、



dN2 / dt = 0



とおくことができ、 式を整理すると、



( A + B・I + knr ) N2 / N1 = B・I + kZ



となる。ここで、両状態間の比を次式のようにボルツマン分布であらわし、



N2 / N1 =exp( - hν / kBT)

 

さらにB・Iについてまとめると、


A + knr -  kZ exp( hν / kBT ) = B・I ・{exp( hν / kBT ) - 1}



となる。ここで、次の関係式を用いてBを消去し、



A= ( 8πhν3 / c3 )・B



さらに、式の簡略化のために次式を定義する(アレニウスの式と同型)。



kZ = exp( - hν / kBT ) ・kET

 

ここで、ボルツマン分布は、hνの励起エネルギーを持つエネルギー準位に分布している分子の割合を示し、kETはその十分な励起エネルギーを持った分子の運動エネルギーから振動エネルギーへのエネルギー移動の速度定数(kT-V)と、ある振動モードから別の振動モードへのエネルギー移動の速度定数(kV-V)の和を意味している。

 

kET = kT-V + kV-V

 

また、モード1個あたりの振動子がもつ平均エネルギーを次式であらわすと、

 

Eos = hν / { exp( hν / kBT ) - 1 }


となる。これは光子1個のエネルギー(hν)に、ボース・アインシュタインの分布関数をかけたものである。これを代入すると、最終的に次の関係式が導かれる。


8πν2 / c3 ・Eos = A / (A + knr) ・I(ν,T) + kET / (A + knr) ・8πhν2 / c3 ・Eos



さらに、黒体放射強度を次式のプランクの式を用いてあらわすと、

 

E(ν,T) = 8πν2 / c3 ・Eos

 

となる。これは、1個のモードあたりの平均エネルギー(Eos)に、単位振動数、単位体積あたりのモード数をかけたものに相当する。これを代入すると、

 

E(ν,T) = A / (A + knr) ・I(ν,T) + kET / (A + knr) ・E(ν,T)

 

となる。これを定性的に理解するために、放射、無放射の各収率を次のように定義し、


Φr = kr / (kr + knr) = A / (A + knr)

 

Φnr = knr / (kr + knr) ~ kET / (A + knr)

 

これを代入すると、


E(ν,T) = Φr ・I(ν,T) + Φnr ・E(ν,T)

 

となり、実際の気体分子のように、無放射緩和過程の寄与がある場合のプランクの黒体放射エネルギーの内訳を明確にすることができるようになった。


ここで、左辺はある振動数成分における完全な黒体放射エネルギーを表している。一方、右辺第一項は実際に観測することができる正味の放射エネルギー、右辺第二項は分子間衝突に誘起された無放射エネルギー移動に消費されるエネルギーの割合を示している。CO2の振動励起状態のように、放射緩和過程の量子収率(Φr)が小さければ、黒体放射であらわされるエネルギーの大部分は必然的に無放射緩和に分配されていることになる。

 

また、上式に、場に入射される放射強度I(ν,T')として黒体放射E(ν,T)を考えるならば、

 

E(ν,T) = (Φr  + Φnr )・ E(ν,T)

  
となり、放射と無放射緩和過程の収率の和が1となることが示される(*)。プランクの放射式は無放射緩和過程の寄与が無視できる場合にのみ当てはまるが、実際には黒体のような理想的な分子は存在しない。

 

もう一つの黒体の条件

もう一つ黒体の条件として、入射された放射をすべて吸収する物質でなければならないというものがある。つまり、あらゆる振動数の振動子をもつことが黒体放射の前提条件の一つとなっている。現実の物体では完全な黒体を作ることはできないため、空洞などを用いて黒体放射の検証が行われている。また、気体分子は基本的に線スペクトルであり、黒体とはかなりかけ離れた存在であるために、分子論的なアプローチなどが必要となってくる。


固体の場合、バンド構造のように電子のエネルギー準位を連続的な分布として取り扱うことができるため、様々な振動数の吸収・放射を行うことができる。また、太陽放射のような連続スペクトルの場合は、分子運動などにより十分にスペクトルが密になった状態の結果であり、実際には様々な量子状態をもった個々の分子の線スペクトルの重なりによって形成されているものと考えられる。

 

* 場に入射する放射強度I(ν,T')として地球放射を想定するならば、地球放射の吸収による大気温の上昇過程として記述することもできる(今回は大気がもつ温度からの仮想的な黒体放射を想定しており、温度一定のもとでの定常解を求めた)。地球放射を想定した場合、今回のような定常解ではなく、外部からの摂動を受けた非平衡状態からの緩和過程として記述する必要があるだろう。

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CO2による「再放射」の量子収率

光熱分光法を用いた無放射緩和過程の測定

分子の励起状態の研究には、分子の吸収・発光過程を利用した吸収分光法や発光分光法などが用いられ、過渡吸収分光法や時間分解蛍光分光法などにより、励起状態のダイナミクスが解き明かされてきた。さらに、放射を伴わない失活過程である無放射緩和過程の研究に対しては、より直接的に放熱過程を追跡するために、光熱分光法が有力な手法として用いられてきた。


光熱分光法には、光音響分光法(Photoacoustic spectroscopy: PAS)や、過渡回折格子法(transient grating: TG)、熱レンズ分光法(thermal lens: TL)などがある。 その中でも、今回、光熱分光法の一種である光音響分光法(PAS)を用いて、N2やO2によるCO2の変角振動励起状態における緩和速度の決定が行われている文献を見つけることができたので、それをもとに放射の量子収率の見積もりを行った。


光音響効果
光音響効果とは、光を吸収した分子が熱を放出し、その熱による体積膨張により音響波(疎密波)を発生する現象のことである。その音響波を圧電素子などにより検出することで、無放射緩和過程について詳細に調べることができる。たとえば、速い無放射緩和過程の割合(量子収率)が大きければ、それだけ信号も大きくなる。また、信号の遅れからデコンボリューション解析などを用いれば、無放射緩和速度を求めることもできる。  


大気中におけるCO2の放射の量子収率

温室効果モデルでは、大気中の温室効果ガスの再放射により下向きの赤外放射フラックスが増え、地表が温められているとの説明がよくなされているが、そこに私は大きな疑問を持っている。大気中の温室効果ガスが、再放射を果たしてどのくらいの割合で行っているのか、詳しく検討する必要があるのではないだろうか。


そこで次に示す文献には、「光音響効果」を用いてCO2の15μmの吸収ピークに相当する変角振動の緩和速度が決定されているので、その値を用いて大気中におけるCO2の赤外発光の量子収率について見積もってみたいと思う。


Vibrational relaxation in CO2-N2 and CO2-O2 mixtures is studied via the optic-acoustic effect.

The relaxation of the bending vibration of CO2 by N2 and O2 can be explained by a simple one-step relaxation. For CO2-N2 a relaxation time of 12.8 ± 1.5 μs atm is obtained, for CO2-O2 8.8 ± 0.3 μs atm.


Vibrational relaxation of CO2 in CO2-N2 and CO2-O2 mixtures, F. Cannemeyer and A. E. De Vries, Physica, 74, 1, 196-204(1974)


上記文献によると、CO2の変角振動の緩和寿命の値は、N2によるものが、12.8±1.5μs atm、一方、O2によるものが、8.8±0.3μs atmと、それぞれ決定されている。これらの寿命を逆数にしたものが、緩和の速度定数となる。
たとえば、N2による緩和速度定数は、


τN2-1 = 1/(12.8μs atm) = 7.8×104(s-1 atm-1)


O2による緩和速度定数は、


τO2-1 = 1/(8.8μs atm) = 1.1×105(s-1 atm-1)


と、それぞれ求まる。
それらの値を用いて大気中のCO2の緩和の速度定数(k)の見積もりを行うと、


k = 7.8×104(s-1 atm-1)*(0.78atm) + 1.1×105(s-1 atm-1)*(0.2095atm)


k = 8.4×104(s-1)


となる。緩和の速度定数は、自然放射の速度定数と、無放射緩和の速度定数の和で表すこともできる。


k = kr + knr  


一方、自然放射寿命(τr)は、吸収断面積(20.2m2/mol)から、


τr = (109 / 4)× (1.5 λ02 / σ) =1.5×109×(15×10-6)2/(4×20.2) = 0.0042


となる。そして、自然放射の速度定数(kr)は、自然放射寿命(τr)の逆数で表される。


kr = 1/τr = 1 / 0.0042



kr  = 2.38×102(s-1) 


この自然放射の速度定数はアインシュタインのA係数に等しい。さらに吸収断面積からはアインシュタインのB係数が求められる。また、アインシュタインのA係数とアインシュタインのB係数は比例関係にあるため、吸収断面積が分かれば自然放射の速度定数を求めることができる(「温室効果ガスの分光学」も合わせて参照されたい)。


ここで、放射の量子収率(Φr)は各緩和過程の速度定数を用いて求めることができる。


Φr = kr / (kr + knr)   


したがって、放射の量子収率(Φr)は、


Φr = kr / (kr + knr)  = 2.38×102 / 8.4×104


Φr = 0.0028


と求められた。この結果、CO2の変角振動励起状態からの赤外発光過程である「再放射」の割合は、約0.3%と非常に低い値であることがわかった。残りの99.7%は分子衝突に伴う分子間エネルギー移動などによって無放射緩和過程を経て失活するものと考えられる。つまり、CO2の振動励起状態は放射を伴わずに失活する割合の方がはるかに高い。移動した励起エネルギーは、他の分子の振動、回転、並進運動などに分配され、さらに分子内モード分配などの緩和が起こる。ボルツマン分布に従えば、最終的に大部分の励起エネルギーは大気中の大半を占める窒素分子か酸素分子の回転あるいは並進運動エネルギーへ分配されることになるだろう。


この非常に小さな放射の量子収率の値は、高感度な検出システムが必要となることを意味している。しかも、大気中に含まれるCO2の割合は、わずか400ppm(0.04%)程度と、非常に微量である。これは、100万個に1個の割合で起こる微弱発光を観測することに相当する(0.04%×0.3% = 1.2 × 10-6)。おそらく、一般に市販されている放射温度計で大気中の温室効果ガスによる放射を測ることは非常に難しいことではないだろうか。たとえば、前にも「
再放射の可能性について」というエントリーで紹介したことだが、HORIBAの説明によると、

空気は、赤外線の放射エネルギー量が非常に小さい(放射率が小さい)ので、測定することはできません…(中略)…ところで、晴れた空に放射温度計を向けて測定するとどうなるのでしょうか?
この場合は、下限の測定レンジオーバーになります。
理由は、宇宙空間から放射される非常にわずかな赤外線エネルギー(一部は大気中で吸収されます)と大気層からのわずかな放射エネルギーを測定していることになるからです。

HORIBA : 放射温度計プラザ


大気中に含まれている水蒸気(H2O)や炭酸ガス(CO2)は、特定の波長の赤外線を強く吸収します。このため、大気中で全放射温度計による測定を行うと、被測定物の放射が正しく温度計に伝わらず、精度の高い温度測定は難しくなってしまいます。
しかし、8~14μmの波長領域には、大気の影響による吸収はほとんどありません(図2)。したがって、この領域の波長を利用することによって、大気の影響を受けずに被測定物の温度を測定することができます。

HORIBA : 放射温度


と説明されており、むしろ、大気の吸収により、放射体の測定に支障をきたすとしている。放射温度計は水蒸気やCO2などによる吸収を避けるために、大気の窓領域を利用して測定を行ったりもするようだが、大気の窓領域において赤外発光を行う大気分子とは一体なんであろうか。それは、雲ないし、水蒸気による連続吸収帯からの発光ということになるのかもしれない。 


温暖化のモデルでは、放射平衡や放射強制力など、やたらと放射という言葉が出てくるが、そもそもCO2にとって放射過程は非常にマイナーな失活チャンネルである。大気は放射体というよりも、むしろ放射の吸収体である。雲など一部の物質を除いて大気の赤外発光を観測することは、実験室などで用いられるような高感度な検出システムでなければ容易なことではないだろう。このような微量な大気成分であるCO2のマイナーな再放射過程が気候に著しい影響を及ぼすとは非常に考えづらいことだ。大気から地表への伝熱過程において、CO2による再放射過程は、あくまでマイナーなエネルギーの散逸過程の一つに過ぎないのではないだろうか。

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