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断熱モデルによる気候感度

気温に与えるCO2の影響を評価するための指標の一つに気候感度があります。気候感度とは、一般に、CO2が二倍に増加したときの気温変化のことです。私がこれまでに紹介した気候感度の値としては、実測値に基づくもので、0.4℃程度となっています(水蒸気フィードバックと気候感度の妥当性)。「アイリス仮説」など雲の研究で著名なリンゼン氏も気候感度の値に対して近い見解を示しています。

Richard S. Lindzen, An Exchange on Climate Science and Alarm, in Global Warming: Looking Beyond Kyoto, 2008

さらに、今年になり、地球温暖化に対する総説論文がイギリスの科学雑誌に掲載されました。

Global warming and carbon dioxide through sciences :
G. A. Florides and P. Christodoulides, Environment International, 35, 390 (2009).

JSTによる抄録の邦訳: 科学を介した地球温暖化および二酸化炭素

この総説論文に紹介されている気候感度の値は、0.01℃~0.03℃となっています。この気候感度の値は、断熱モデルにより見積もられたものです。つまり、この気候感度の値は、温室効果や潜熱輸送だけではなく、圧力による断熱圧縮による昇温効果を考慮したものとなっています。総説に紹介されている断熱モデルの論文の式を見ると、温室効果をそのまま比熱の補正項として表現されているのが分かります(論文のPDFが必要な方はメール等にて要請してもらえれば用意します)。

O. G. Sorokhtin et al., Energy Sources, Part A, 29, 1 (2007)

ところで、私は前回のエントリーで温室効果を比熱のアナロジーとしてイメージしたことを伝えましたが、断熱モデルのように実際に式に導入するまでには至りませんでした。下記に前回のエントリーの一部を引用します。

私が温室効果に対してもった初期のイメージとしては、比熱が生じるメカニズムをミクロな視点で考えることで、そのアナロジーとして地表と大気の間で付加的な保温効果が生じるのだろう、といったことを考えました。比熱は物質の持つエネルギー準位によって規定されます。しかし、あまりにも高いエネルギー準位は比熱に寄与しません。水蒸気や二酸化炭素は、調度、赤外領域にエネルギー準位を持っており、その放射によるやり取りに注目したものが温室効果ではないかと考えました。

温室効果の理解と宇宙気候学の進展

気候感度は気候モデルによる計算によっても見積もられており、低感度と高感度の二種類が用意され、それぞれのパラメータには異なる任意の値が用いられているようです。しかしながら、気候モデルも断熱モデルも所詮は机上の空論です。実測値には敵いません。私としては、Idsoらにより見積もられた実測に基づく気候感度の値の信頼性がもっとも高いと感じています。

TARでは、UKMOモデルによる20世紀気候シミュレーションで、自然起源と人為起源双方の強制力を与えることで全球平均地上気温のトレンド・長期変化を定量的にも再現できることを示していた。その後、いくつかの気候モデルでも同様の結果が出ているが、それらで用いられている強制力は同じではない。異なる大きさの強制力を用いていながら、なぜどのモデルでも20世紀気候再現に成功するのか?どうやら気候感度の低い(高い)モデルでは大きい(小さい)強制力を使った実験を行っているためらしい。

気候感度に関するIPCCワークショップについて(リンク切れのため、キャッシュより引用)

それにしても、気候モデルを用いた研究者同士でも、お互いに用いているパラメータや計算条件すらも分からないとは、計算の扱いに関して余りにも閉鎖的に過ぎるようにも感じます。これでは計算の再現性や検証さえできませんから、反証可能性といった科学としての最低限度の条件を満たすことすら難しいのではないかと思います。

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宇宙線に誘発される火山活動の可能性

宇宙線が地球に与えている影響は気候だけではなく、地震や火山活動にも影響をあたえているのではないかという説があります。しかしながら、理科年表(2001年、p859 )によりますと、1926~1999年の期間の日本付近の地震数の推移はランダムな事象のように見えます。


earthquake-j



一方、Wikipediaの『小氷期』の項によると、「小氷期の全体にわたって、世界各地で広範な火山活動が記録されている」とあります。また、日本の火山活動については、下記の気象庁のページによりますと、ダルトン極小期と1900年と1950年頃の前後の期間に比較的、集中しているように見えます。これを見る限りでは地震よりも火山活動と太陽活動ないし宇宙線との相関の可能性を探る方がよさそうに思います。


気象庁 | 過去の主な火山災害


しかしながら、世界の地震データを見ますと、2000年を前後した辺りから地震活動の活発化を示すグラフもあります。下記に示す年度ごとの地震放出エネルギーの推移を見ますと、2000年前後から21世紀初頭にかけて地震活動が活発な傾向にあることを読み取ることが出来ます。


quakeenergy


Number of Earthquakes by Year


earthquake energy ratio


Earthquake Energy Rise on Earth:
Tom J. Chalko, NU Journal of Discovery, May 2008


丸山茂徳氏はミランカというネット番組で、まだ検証が確立されていないとの断りを入れた上で、宇宙線がトリガーとなって火山や地震を誘発するキャビテーション現象が促進されているとの説を紹介しています。その直接の論文については見つけることが出来ませんでしたが、丸山氏の仮説とは異なるメカニズムによって地震と太陽活動の関係について述べた論文やサイトなどがありましたので以下に一部紹介します。


(ここで一言加えますと、私がネット上で論文を探した限りで感じたことですが、ほとんどロシアのチームによってしか研究が行われていないということに注意する必要があるかもしれません。提案されているメカニズムに対して、私には納得できないところがあります。地震大国日本のデータを使えば、もう少し詳しいことが言えるかもしれません。)



私はそれらの相関関係について判断を保留してますが、火山活動なら、もしかしたら実験的にメカニズムを検証できる可能性もあるのかもしれないと考えています。実験室レベルの条件下において宇宙線によってキャビテーション現象を誘発し、それを観測することは可能だと思います。


Variations of the cosmic ray fluxes as a possible earthquake precursor:
A. L. Morozova et al., Phys. Chem. Earth (A), 25, 321-324 (2000)


Variations of the number of weak and strong earthquakes for 1977–1998 years and their possible precursors:
T. V. Barliaeva et al., Phys. Chem. Earth (C), 26, 801-805 (2001)


Long-period trends in global seismic and geomagnetic activity and their relation to solar activity:
S. Odintsov et al., Phys. Chem. Earth, 31, 88-93 (2006)


Solar activity and global seismicity of the earth:
S. D. Odintsov et al., Bull. Russ. Acad. Sci. Phys., 71, 593-595 (2007)


Relationship between global seismicity and solar activities:
Gui-Qing Zhang, Acta Seismologica Sinica, 11, 495-500 (1998)


A relationship between solar activity and frequency of natural disasters in China:
Wang Zhongrui et al., Advances in Atmospheric Sciences, 20, 934-939 (2003)


On the relation between solar activity and seismicity:
Gousheva, M.N. et al., RAST 2003, Proceedings of the International Conference on Recent Advances in Space Technologies, held November 20-22, 2003


以下は太陽活動と地震の関係をまとめたサイト


Earthquakes and Volcanoes: Scientific Research from the 1980s and 1990s


Jupiter's Dance


その他の地震関連サイト


THE INDIRECT GRAVITY EFFECT/Planets, Sunspots and Earthquakes


Sunspots vs earthquakes and volcanoes - Astronomy.com Forums


Weather Anomalies and Natural Disasters

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温室効果の理解と宇宙気候学の進展

大気中の赤外活性分子による「温室効果」を理解したいと思っている人は少なくないと思う。しかし、世間一般に流布されている温室効果の説明に満足できるものはほとんどないといっていいだろう。なぜなら、物理学の基礎である熱力学の第二法則を無視した説明が平然とまかり通っているのが現状である。そこで、私はこれまでに「Gerhard Gerlich et al. (2007)」のレポートを二回にわたって紹介した。


解き放たれたアレニウスの呪縛
理論物理学による温室効果に対する反証


Gerlichらのレポートは最近になって総説(Review Paper)として物理学雑誌に受理されている。


"Falsification Of The Atmospheric CO2 Greenhouse Effects Within The Frame Of Physics"
G. Gerlich and R. D. Tscheuschner, Int. J. Mod. Phys. B, 23, 275-364 (2009)


論文の内容についてはプレプリントではあるが、次のサイトにpdfとして配布されている。


http://arxiv.org/abs/0707.1161


総説を読みこなすのは大変なことだが、時間のある人は一読してみるといいかもしれない(たとえば、気候モデルでは大気の熱伝導率をゼロとおくことが慣習となっていることなど、ほとんどの人は知らなかったのではないかと思う。)。温室効果の理解の助けになる日本語のサイトとしては、近藤邦明氏の「総括 気温変動と大気中CO2の関係」、「『温室効果・再放射』再考」などがある。私は大気からの「再放射」という言葉によって、温室効果の理解を間違えたことがあります。言葉の不十分な定義は無用な混乱を生じさせます。


私が温室効果に対してもった初期のイメージとしては、比熱が生じるメカニズムをミクロな視点で考えることで、そのアナロジーとして地表と大気の間で付加的な保温効果が生じるのだろう、といったことを考えました。比熱は物質の持つエネルギー準位によって規定されます。しかし、あまりにも高いエネルギー準位は比熱に寄与しません。水蒸気や二酸化炭素は、調度、赤外領域にエネルギー準位を持っており、その放射によるやり取りに注目したものが温室効果ではないかと考えました。


結局のところ、地表から大気(あるいは宇宙)への放射の条件と、上層大気から宇宙への放射の条件のみに注目すれば、後のエネルギーのやり取りは余り考慮する必要性を感じませんでした。つまり、地表放射に対しては、大気の窓を閉める余地があとどれくらい残されているのだろうか。大気上層に関しては、局所熱力学平衡にある大気高度と、非局所熱力学平衡にある大気高度で、光学的厚さの増加に対する放射の振る舞いに違いがあるのではないだろうか、といったことです。


大気の窓は雲によって開閉されます。「アイリス仮説」によれば、熱帯の気温が一定に保たれている原因として、雲がアイリスの「絞り」のように開閉し、放出するエネルギーを調整しているのではないかと考えられています。この効果は放射平衡温度の見積もりにどのように寄与するでしょうか。また、海洋や対流の重要性も忘れてはなりません。さらには、霧箱の原理を地球大気に当てはめたスベンスマルク効果があります。宇宙線や太陽活動を含めた研究は、「宇宙気候学」といった分野で行われています。


宇宙線はオゾンホールとの相関も指摘されています。さらには宇宙線が生命進化などにも影響を及ぼしてきたのではないかとの説もあります。点と点を結ぶことで、おぼろげながら見えてきたことがあります。私達は来たるべきパラダイムシフトの瞬間に立ち会っているのかもしれません。


"Correlation between Cosmic Rays and Ozone Depletion"
Q.-B. Lu, Phys. Rev. Lett., 102, 118501(2009)


" From galaxy to genome: A perspective on snowball Earth and Cambrian explosion"
Shigenori Maruyamama


"Models on Snowball Earth and Cambrian explosion: A synopsis"
S. Maruyama and M. Santosh, Gondwana Research, 14, 22-32 (2008)

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月の摂動

太陽の光が地球に到達するには、およそ8分程度かかる。このことから、天文学的スケールでは、地球と太陽の距離は非常に近いともいえる。この地球と太陽間の距離を1天文単位(AU=アストロノミカル・ユニット)と言い、これを光年に直すと約0.000016光年となる。


では、プロトンや電子などの荷電粒子からなる太陽風は、どのくらいの時間をかけて地球に降り注いでいるのだろうか。Wikipediaによると、地球の公転軌道に達するときの太陽風の速さは約300~900km/sとある(太陽風 - Wikipedia)。つまり、太陽風が地球に到達するまで約2~4日程度かかる計算になる。


それでは、月の摂動が地球に及ぼす時間レンジはどのくらいのスケールで起こるのだろうか。比較的長いものでは、月の「章動」運動による18.6年周期の変動が知られている。
千島・アリューシャン列島海峡付近における海面水温の長期変動(中央水産研究所)


より短期的な月の摂動の例としては、月の満ち欠けと降雨の関係を挙げることができる。根本順吉氏の「月からのシグナル」には、新月および満月の三から四日後にかけて雨が降りやすい傾向にあることを見出したブラッドリーらによる論文が紹介されている。


moon-rain
アメリカにおける月齢と降雨量の関係
The Lunar Synodical Period and Precipitation in the United States:
G. W. Brier and D. A. Bradley, Journal of the Atmospheric Sciences, 21, 386 (1964)


南半球における降雨氷晶核濃度と月齢の関係
The Results of Large–Scale Measurements of Natural Ice Nuclei:
E.K. Bigg and G.T. Miles, Journal of the Atmospheric Sciences, 21, 396 (1964)


月は、はじめ地球に入射している流星塵に影響し、次にこれが流星塵を一部としてふくむ下層大気の氷晶核に結果としてあらわれる。そして、最後に、氷晶核の数に関連したグローバルな降水と月齢の関係としてあらわれてくる仕組みが考えられることになるのである。

p115、根本順吉、「月からのシグナル」、筑摩書房、1995


ビッグは、氷晶核の起源を、散在流星として直接地球に入射してくるものを考えたのであるが、ヴァンドは次のように考えた。木星族の流星群が、太陽にちかづいたり遠ざかったりする時に、地球の公転軌道を横切り、その時、地球をまわる月の表面に落下、これが毎秒一〇キロくらいの速さで月から脱出してくる。これがテクタイトに似た粒子のせまい流れとなって地球まではね返ってくる。

p117、根本順吉、「月からのシグナル」、筑摩書房、1995


なぜ、月齢と降雨に関係があるのだろうか。月は宇宙塵を攪拌しながら公転をしており、その攪拌された宇宙塵が地球にも降り注ぎ影響を与えているのではないかとの説がある。1994年には、デルモットらにより「太陽系内の小惑星塵が、地球の公転軌道に沿って閉じ込められており、地球はこの塵を絶えず引きずりながら公転しているらしい」ことが発見されている。
A circumsolar ring of asteroidal dust in resonant lock with the Earth:
Stanley F. Dermott et al, Nature, 369, 719 (1994)


dust-cloud
Marc Kuchner et al., Dynamics of Exozodiacal Clouds


北京オリンピックでも話題になったが、人工降雨の実験では大気中に微小粒子をばらまいたりもする。いわゆる種結晶となるものがあれば、結晶成長を著しく促すことができるようになる。スベンスマルクらは、雲の形成過程に高エネルギー宇宙線からの二次粒子がトリガーとなっているとの説を唱えている。どうやら、雲の形成については、宇宙塵や宇宙線など宇宙物理学的な摂動が無視できない働きを担っている可能性があるようだ。


太陽の11年周期と月の18.6年周期

太陽活動の11年周期の変動と気温の関係は、長期記録された気温変化をフーリエ変換スペクトルにすることで見出すことができる。下記に紹介する図を見ると、11年周期の気温変動の他に、さらに18.6年周期の気温変動を見出すことができる。これは月の「章動」運動によるものと考えられる。

sun-moon-cycle

Solar Cycle Signal in Air Temperature in North America: Amplitude, Gradient, Phase and Distribution:
Robert G. Currie, Journal of the Atmospheric Sciences, 38, 808 (1981)


北極振動(Arctic oscillation )や北大西洋振動(NAO)に対する月の摂動の影響を指摘する論文もある。

The high signal-to-noise ratio shows that the lunar nodal spectrum can have a major influence on the Arctic oscillation system, which influences long-term fluctuations in the extent of Arctic ice. The lunar nodal spectrum in the coverage of Arctic ice is a potential influence on the NAO winter index, weather, and climate.


6-18-74
The influence of the lunar nodal cycle on Arctic climate:
Harald Yndestad, Journal of Marine Science, 63, 401 (2006)


一方、太陽活動と銀河宇宙線によってもたらされる摂動は海洋の運動を通じ、中長期にわたって地球を駆け巡り、地球の各地域の気候に影響を与えているようだ。


time-lag
Evidence for a physical linkage between galactic cosmic rays and regional climate time series
Charles A. Perry, Advances in Space Research, 40, 353 (2007)

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光るタンパク質:GFPの謎

日本人のノーベル賞受賞記念ということで、ブログの更新をします。


GFPの発見によって、下村脩さんにノーベル化学賞の受賞が決まった。受賞理由には「緑色蛍光たんぱく質(GFP)の発見と発光機構の解明」とある。生物発光は基本的に化学反応によって発光する。これを化学発光と呼ぶ。


生体内ではカルシウムイオンとイクオリンが反応し、フェルスター型エネルギー移動により、GFPが発光する。また、紫外線によって直接GFPを電子励起することによっても発光する。この発光メカニズムは謎に満ちている。


GFPの発色団だけを取り出して、バルク溶媒中で紫外線を当ててもほとんど発光しない(蛍光寿命は数ピコ秒オーダー)。これはチロシン誘導体である発色団のOH基に対してパラ位の官能基が構造変化することにより無放射失活を誘起しているためと考えられている。一方、タンパク質中では構造変化が抑えられるため、バルク溶媒中に比べてはるかに強い発光を行うことができるようになる。


Ultrafast fluorescence of the chromophore of the green fluorescent protein in alcohol solutions


An ultrafast polarisation spectroscopy study of internal conversion and orientational relaxation of the chromophore of the green fluorescent protein


励起状態における光酸としてのGFP発色団の挙動に関しても、最近になってようやく解明され始めてきたようだ。たとえば、タンパク質中の水の振る舞いはバルク溶媒と異なり、GFP発色団のプロトン移動を著しく誘起していることが観測から示唆されている。イスラエルの研究チームのノーム・アゴモンらによれば、発光挙動の解析から一次元のプロトン移動が起きていることが推定されている(発光寿命の漸近挙動が一次元のパワー則で減衰することによる)。これを彼らはプロトン・ワイヤー機構と呼んでいる。


Kinetics of Switchable Proton Escape from a Proton-Wire within Green Fluorescence Protein


Deactivation mechanism of the green fluorescent chromophore


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お詫びと訂正:大気からの再放射の解釈について

合成の誤謬
私はここで皆さんにお詫びしたいと思います。これまで私はJack Barrettの論考などをもとにして、分子論的な視点から大気からの再放射は微弱ではないかとの考察を行ってきました(CO2による「再放射」の量子収率)。


これは(単発の事象として)ミクロな視点で見れば正しいのですが、(定常的な現象として)マクロな視点から見ると正しくありません。たとえば、下記のサイトの24~27ページを参照すると、比較的分かりやすいと思います。
基礎物理セミナー レジュメ集 (第 5 章本文)


24ページには、局所熱力学平衡が成り立つ条件として、『衝突による励起/脱励起速度は十分速く, 放射過程よりも衝突過程が支配的である状況』とされ、26ページには、『ただしΦ= a21/A21 である.局所熱力学平衡状態では衝突による励起/脱励起作用が支配的であるので, Φ→ ∞となり, J → B すなわち放射源関数はプランク関数となる』

『Φは, 衝突過程, 放射過程におけるそれぞれの励起状態から緩和する確率a21, A21の比である. この節の最初の議論から期待していたように, Jº ⋍ Bº, すなわち局所熱力学平衡は加熱率が小さいか, 衝突過程が支配的である, すなわちΦが大きい場合に成立する』とあります。


これをまとめますと、「局所熱力学平衡では、分子衝突による励起・脱励起過程が支配的になるために放射源関数がプランク関数で近似することができる」ようになり、その結果、赤外活性分子による大気放射が近似的に黒体放射スペクトルを描くことができるようになるのではないかと考えられます。つまり、無放射緩和過程が支配的であるからこそ、局所熱力学平衡が成り立っており、もし、放射による緩和過程が支配的ならば、局所熱力学平衡は成り立たない、と言い換えることができると思います。


私の視点で欠けていたものは『励起源』としての衝突過程です。つまり、励起状態からの緩和過程のみに注目し過ぎたということです。衝突励起の速度が大きければ、単位時間当たりの励起回数は非常に大きなものとなります。一方、衝突励起、あるいは衝突による脱励起の速度が非常に遅ければ、単位時間当たりの励起回数は非常に少なくなるものと考えられます。


私はボルツマン分布による励起濃度の推定は行いましたが、それ以上の踏み込んだ考察に欠けたため、今回のようにミクロからマクロを結ぶ過程で過ちが生じたのだろうと思います。太陽のような高温な物体が黒体放射を描くのも、衝突による励起・脱励起のサイクルが非常に速いため、定常的な発光強度としてはプランク関数を描くことができるのではないかと考えられます。

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